ニースで出会って仲良くなった日本人の女の子がパリに移り、その少し後、私もニースからパリに戻り、その際、数日間彼女のアパルトマンに泊めさせてもらったことがあります。
彼女はシャンゼリゼの人気パティスリーでバイトしていて、アパルトマンはそこから徒歩7、8分。
ショップやホテルはちょこちょこあるけど賑やかな商店街的なところはなく、比較的静かで危険の少ないカルティエでした。
とにかくシャンゼリゼまで徒歩で行けるので、シャンゼリゼで働いている彼女にとっては本当に便利だったと思います。
なのですが、彼女の住むアパルトマンの部屋について、ここはどうかな、という印象が私には正直ありました。
パリの建物は古いものが多く、しかもカルティエによっては密集して建っていて外観だけ見ると、中も狭そうだな、と感じることがよくあります。
でも実は小さなドアの向こうは意外に奥行きがあったり、螺旋階段があったり、吹き抜けで小さな中庭があったりで、各部屋、もちろん小さな部屋もあるけど、広い部屋もあったりします。
でも彼女のアパルトマンは外観とまったく同じで通路や階段もとにかく狭くて、部屋自体もとても小さかったのです。
部屋が小さいのはぜんぜんいいのです。
私がパリで最初に住んだ部屋も約20平米で、決して広いとは言えなかったですし、日本から来た人たちはよっぽどリッチな人じゃない限り、駐在員じゃない限り、最初は小さな部屋というのが普通。
ただ彼女の住む部屋は、フランス的なところがまったくなかったのです。
大家さんが確か台湾系だったと思うのですが、部屋だけ見たら、どこかアジアの混沌とした街の一部屋の雰囲気。
キッチンも含めアジア的な生活感に溢れていました。
しかも窓を開けるとすぐ隣の建物の壁。
外も空もまったく見えないのです。
なので閉塞感もすごかったのです。
とにかくパリの、しかもシャンぜリゼのすぐそばに住んでるとは思えなかったんですよね。
で、彼女がしょっちゅう言っていたのが、ニースはあんなに楽しかったのに、パリがぜんぜん楽しくない。パリは好きじゃない。ということ。
その時に私は、いくらシャンゼリゼが近くても、この部屋と職場を毎日徒歩で行き来してるだけでは、やっぱりそう思ってしまうのはしかたないかも、と思ったのです。
私が最初に住んだカルティエは、すぐ近くに賑やかな商店街がいくつもあって、顔馴染みになったお店の人たちがしょっちゅう声をかけてくれました。
部屋からは、パリらしい通りの風景や灯が見えて、それを眺めていると、ああ、パリに本当に住んでいるんだな、夢のようだな、とよく思ったものです。
おしゃれでも何でもない小さな部屋だったけど、パリらしさに囲まれや環境だったのですよね。
で、彼女はその後日本に帰国したのですが、1年くらい経った頃にメールをくれて、そこには。
今、地元(東北)のパティスリーで働いているけど、フランスで暮らしたのが嘘のようだと。
私のフランス留学はいったい何だったんだろう?と思ってしまうと。
ニースではとても社交的で各国の友達がたくさんいて、フランス語もよくしゃべれて、フランスが合ってるんだな、と私は思っていたのですが。
メールから伝わってくるのは、ニースの時とはまったく違う様子の彼女でした。
それから11年経ったのですが、今でも彼女のことを思い出すと。
あのシャンゼリゼのアパルトマンではなく、もし別のカルティエのアパルトマンで、パリらしい雰囲気が感じられる場所だったら。
庶民的な商店街なんかがすぐそばにあって、お店の人や近所の人としょっちゅう会話をするような環境だったら。
社交的だった彼女のパリ生活は大きく変わっていたんじゃないかな、と思うのです。
なので、住む場所って本当に大きいな、と。
通勤に便利よりも、まず、住む場所が自分にとって楽しいか。落ち着けるか。
それから、人と接するのが苦手な場合は別として、1人暮らしの場合は、職場以外で誰かと接する機会がある、というのも大事だな、と。
実は、この事が今の自分の住まいについての考え方にも少なからず影響しております。
今の住まいはパリ市内より断然不便なパリ郊外だけど、窓を開ければ緑がたくさんあって、星もパリ市内よりはたくさん見えているはずです。
今の自分には、都会より自然がある場所の方が合っているな、楽しいな、落ち着けるな、と感じるのです。
なんて、こんな好き勝手に書いてしまったけれど。
ニースからパリに戻ってきた時、部屋探しが難航していた私を泊めてくれたことには、本当に感謝しているのです。
真面目な雰囲気になるのが好きでいつも伊達メガネをかけていた私に「moiさん、メガネかけない方がいいよ~」って何度も言ってくれて。
フランスに来たわけを、そこまでぶっちゃけなくていいよ、くらい素直にぶっちゃけて話してくれて。
可愛いらしい女の子でした。
うんと若かった彼女も今、大人。
もしかしたら彼女のことだから、またフランスか別の国に出てるかも、なんて思うこともありますが、どうかなどうかな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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